ある大田神社がある。創祀・創建年代は不詳。賀茂県主(かものあがたぬし)が当地に移住する以前から先住
民によって祀られたといわれる。賀茂における最古の神社と伝わり、長寿の信仰がある。御祭神は天鈿女命。
古くは「恩多社(おんたしゃ)」とも呼ばれた。社務記によれば、南北朝時代後期の天授3年(1377年)3月に「大田
拝殿転倒す」とあり、少なくともそれ以前にはすでに造営されていたという。現在の本殿・拝殿はともに江戸時代
初期の寛永5年(1628年)の造替で、いずれも屋根は檜皮葺。本殿は一間社流造。拝殿は割拝殿(建物の真ん
中に通路(土間)がある拝殿)。
参道の脇の「大田ノ沢」では、約2000平方メートルの敷地にカキツバタ約2万5000株が自生しており、「大田ノ沢
次の歌を詠んだ。
神山(こうやま)や 大田の沢の かきつばた ふかきたのみは 色にみゆらむ
中期の画家である尾形光琳(1658年-1716年)の『燕子花(かきつばた)図』のモチーフになったとの言い伝えも
ある。
毎年5月上旬から中旬にかけての開花時に、沢一面に濃淡さまざまな紫色の花をつけ、多くの観光客の目を楽
しませる。大田ノ沢は古代に深泥池と同様に沼地であったといわれ、かつて京都盆地が湖であった頃の面影を
残すものであるとされる。
この日、カキツバタの見頃にはまだ早かったが、それでも可憐な紫色が春風にさわやかにそよいでいた。