京・近江の写真 春夏秋冬

京、近江四季折々の自然の風景とそこに住む人々、祭り、伝統芸能の写真

愛読書40「韃靼疾風録」

イメージ 1

「韃靼疾風録」は、朝興隆の時代を舞台としており中央公論19841月号から1987年9月号まで連載され、

第15回大佛次郎賞1988年)を受賞、司馬さんの長編小説となりました。

舞台は明朝末期、ヌルハチが明を破って後金を建て、ホンタイジ清朝を開く17世紀の東アジアです。平戸に漂

着した満州族の姫を故郷に送り届ける平戸藩(松浦氏)の武士・林庄助の物語です。満州族の姫と・林庄助の数

奇な2人の愛の行方を軸に、「17世紀の歴史が裂けてゆく時期」に、東アジア世界の陸海に展開される雄大な長

編ロマンです。当時の平戸は朱印船貿易の基地として、オランダ、イギリス、ポルトガルの商館が並び、(倭寇

含め)貿易船に乗って呂宋、安南まで出かけた、日本人が海洋民族としての最後の光芒を放った時代です。松

浦藩が、明の滅亡と清の勃興を予測していたはずはありませんが、この長城の外に興った新興国(後金)の貴

人を保護することで、貿易によって巨利を得ようとしたわけです。庄助が姫アビアを満州に送り届ける背景には、

こうした事情があります。松浦藩は、幕府の手前おおっぴらに満州の貴人を故郷に送ることはできませんから、

「金」を与え明の商船に庄助とアビアを託します。

この満州から興った女真族が、わずか数十万の騎馬兵で長城を越えて明を滅ぼし清朝を打ち立てます。この清

朝勃興期の(従って明滅亡期)の混乱の中に、司馬さんは、平戸の武士と女真族の姫君を登場させたのです。こ

の小説の面白さのひとつは、鎖国前の17世紀の東アジアの「気分」です。平戸には財神という明の商人が住み、

浙江語が交わされ、庄助を女真の地に送り込んだ福良弥左衛門は明の政情を探りに気軽に大陸に渡るという

「気分」です。庄助は、弥左衛門と会うため、毎年、重陽(9月9日)の日に渤海沿岸の小島・澡塘子に出かけま

す。月代を剃ってひと目で日本人と分かる庄助を、ああ倭人かと何の抵抗もなく受け入れるという「気分」です。

司馬さんの創作なんでしょうが、貿易のために自由に海外と行き来し、タイやベトナム日本人町を作っていた、

時代の気分というものにあふれています。そうした気分の中で、庄助や弥左衛門といった架空の人物が、袁崇

煥、毛文竜やヌルハチホンタイジなどの実在の人物とともに活躍するわけですから、こ気宇壮大な物語となっ

ています。