暗い住宅地の夜道を通りすがりの人に道を聞きながら上りの道を歩いてゆくと、明るい電灯に照らし出された本
堂が木陰から見えてきた。題目踊の行われる涌泉寺である。本堂に近づくと中では「妙法」の図柄を染め込んだ
浴衣を着た人々が題目踊の開始時間を待ちながら談笑していた。南妙法蓮華経の経文が書かれた経帷子や
「妙法保存会」と染め出された半被を着た人の姿も見える。
で、いくつかの信仰習俗を伝えている。その中心となるものがこの題目踊で毎年八月一五日と一六日の夜、涌
泉寺の境内で催される。まことに地味な踊りで松ケ崎の人たちだけで踊ることになっている。題目踊が終ると、次
いでサシ踊りが楽しく踊られ、これには誰もが参加できる。また八月一六日の題目踊は、裏山にともされる「妙
宗できたことに感動して始まったのがこの題目踊であるという伝承があるが、実際は祖霊信仰の一つとして意味
づけられるべきであろう。またこの題目踊は、かつて後水尾天皇の天覧に供したと伝えられ、村人もこれを名誉
としている。格調の高い調子の唄に合せて扇をもって静かに踊るという、荘厳な踊りである。
(「日蓮宗事典」より)
経に節をつけて唱え,太鼓をたたきながら踊るのでこの名がある。またサシ踊はいまでいう盆踊りの原型であろ
うか。本来は本堂前の広場で題目踊とサシ踊が行われるのだが、この日は午後からの天気が雨模様だったた
め、題目踊は本堂の中で行われ、サシ踊は残念ながら中止となり見ることはできなかった。地元の人々だけで
行われる仏事であるため、まことにのんびりとした雰囲気で、本堂の広い畳の上を走り回る子供もいる。