「酔って候」(よってそうろう)は幕末の西南雄藩を舞台とした短編4編集です。文藝春秋で単行本が刊行されまし
の伊達宗城と、彼に命じられて蒸気船を開発した前原巧山(嘉蔵)を描いた「伊達の黒船」そして近代化に邁進
◎わたしと「酔って候」
です。
んだものであり、明治になってから藩籍奉還で藩主の座から降ろされて、初めて自分が利用されたに過ぎないこ
とに気づきます。
航からわずか3年後のことです。一般には外国人技師を雇った薩摩藩の船が日本初の蒸気船とされています
が、宇和島藩の船は日本人だけで作った蒸気船の第1号でした。
とっている。藩政は他藩のような家老まかせでなく,藩公である鍋島閑叟による完全な独裁体制下にあり、それ
だけでも異常であるのに、この閑叟が二百年来の傑物とされた。幕府はその草創のころからこの佐賀藩に対し
長崎警備を命じてきている」 鍋島閑叟はその幕府の方針に沿って藩を洋式化しようとしました。藩の鉄砲装備
を最新式なものにし、藩軍を洋式化し、そればかりでなく製鉄所や作業工場などをつくっていまや小型軍艦まで
建造できる実力を持っていましたから、その軍事力は討幕を画策する薩長にとっては魅力のあるものでした。し
かし鍋島閑叟はもともと保守的な人物であり、その軍事力は他藩には秘密にしていました。しかし時代の流れは
その軍事力を必要とし、幕末の最終末に討幕に参加したのでした。後年明治維新をやり遂げた西国の雄藩は薩
治維新もどうなっていたかわかりません。
以上この短編4編は読めば読むほど味わい深い小説となっています。長編小説を得意とした司馬さんですが短
編小説も素晴らしい作品が数多くあり、この4編はわたしのもっとも好きな小説です。