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愛読書28「酔って候」

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「酔って候」(よってそうろう)は幕末の西南雄藩を舞台とした短編4編集です。文藝春秋で単行本が刊行されまし

た。土佐藩山内豊信を主人公として描いた「酔って候」、薩摩藩島津久光が主人公の「きつね馬」、宇和島藩

伊達宗城と、彼に命じられて蒸気船を開発した前原巧山(嘉蔵)を描いた「伊達の黒船」そして近代化に邁進

する肥前藩鍋島直正を描いた「肥前の妖怪」の短編です。

◎わたしと「酔って候」

「酔って候」ー土佐藩山内豊信(容堂)は関ヶ原の戦いで功績を上げた藩祖山内一豊徳川家康から土佐20

万石を与えられたことから徳川幕府に恩義を感じ、徳川家の存続に努力しますが、山内一豊が土佐に入部する

前に土佐を治めていた長曾我部家の旧家臣団の郷士土佐勤王党として討幕に参加します。結局時代の流れ

に抗しえず、山内豊信は最終的には討幕に向かいますが、討幕に参加した時期が遅く、薩長の後塵を拝するこ

ととなります。大恩ある徳川幕府を潰してしまった山内豊信はその複雑な心境から逃れるため酒に溺れていくの

です。

「きつね馬」は薩摩藩藩主島津久光がきつね顔だったことから付けられた題名です。先代の、時代の先を読む能

力に長けた島津斉彬の遺訓を継いで藩政に努めますが、討幕はすべて西郷隆盛大久保利通が勝ってに仕組

んだものであり、明治になってから藩籍奉還で藩主の座から降ろされて、初めて自分が利用されたに過ぎないこ

とに気づきます。

「伊達の黒船」は宇和島藩伊達宗城は藩を挙げての試行錯誤の末、実験的な蒸気船を完成しました。黒船来

航からわずか3年後のことです。一般には外国人技師を雇った薩摩藩の船が日本初の蒸気船とされています

が、宇和島藩の船は日本人だけで作った蒸気船の第1号でした。

肥前の妖怪」は肥前藩鍋島直正(閑叟)を描いたものです。司馬さんの小説「歳月」で司馬さんはこう書いて

います。「肥前佐賀藩は35万7千石という鎮西の大藩であったが、この風雲のなかできわめて特異なゆきかたを

とっている。藩政は他藩のような家老まかせでなく,藩公である鍋島閑叟による完全な独裁体制下にあり、それ

だけでも異常であるのに、この閑叟が二百年来の傑物とされた。幕府はその草創のころからこの佐賀藩に対し

長崎警備を命じてきている」 鍋島閑叟はその幕府の方針に沿って藩を洋式化しようとしました。藩の鉄砲装備

を最新式なものにし、藩軍を洋式化し、そればかりでなく製鉄所や作業工場などをつくっていまや小型軍艦まで

建造できる実力を持っていましたから、その軍事力は討幕を画策する薩長にとっては魅力のあるものでした。し

かし鍋島閑叟はもともと保守的な人物であり、その軍事力は他藩には秘密にしていました。しかし時代の流れは

その軍事力を必要とし、幕末の最終末に討幕に参加したのでした。後年明治維新をやり遂げた西国の雄藩は薩

長土肥といわれますが、薩長よりさらに土佐より後塵を拝しました。しかし肥前佐賀藩の軍事力がなかったら明

治維新もどうなっていたかわかりません。

以上この短編4編は読めば読むほど味わい深い小説となっています。長編小説を得意とした司馬さんですが短

編小説も素晴らしい作品が数多くあり、この4編はわたしのもっとも好きな小説です。