があざやかに描き出されています。その一方で、記憶力と語学習得力は抜群ながら、人間関係の構築のまずさ
で不利を被っている島倉伊之助(後の司馬凌海)の姿が、この両者とは違った形で描かれています。幕末から明
治維新の時期を政治でなく、医療の目から、またその医療を通しての身分制度批判という観点から見た作品で
す。
◎わたしと「胡蝶の夢」
ダの社会そのものを具現しているともしていました。当時の日本の場合は、身分ごとに医師が分かれており、そ
のため、オランダ人医師ポンペがコレラの大流行時以前から見せていた、身分の区別のない「医者と病者」とい
う区分は、良順にとっては目からうろこが落ちるような思いであった。附属病院を作る際にもこの思想が基盤に
た医学に感じた限界について語っており、適塾と順天堂の違いについても触れている。この小説のテーマとも
説中にも述べているが、いずれにせよこの存在が、江戸期の日本というものを大きく変えてゆき、また、断片的
な知識の授与であった日本の西洋医学が、ポンペの授業によって組織的になったことも意義深いとしている。
も彼らに協力するようになるくだりなど、明治維新を医師という立場からみたという今までと違った切り口での物
語の展開に興味は尽きません。