稚児が雨の中を朱傘に守られて姿を消すと、にわかに長刀鉾の周囲はあわただしくなった。これから車方が中
心となって辻回しが始まるのである。辻回しとは鉾の方向転換をいう。巡行の最終コースはこの広い御池通りか
再び左折し、鉾町に戻るのである。つまり京都の目抜き通りを時計まわりとは反対にロの字に進む。その間四回
の辻回しがあるが、三回目のここでの辻回しが唯一広い通りから狭い通りへの辻回しであり、特に慎重さが求め
られる辻回しなのである。
車方たちは鉾の下に収納されている割れ竹を持ち出し、所定の場所に敷きつめ始めた。この割れ竹の上に鉾の
車輪を乗せて横滑りさせて一挙に鉾を方向転換させるのである。通常車輪が横滑りし易いように竹の上に水を
撒くが今日は雨の中での辻回しだから横滑りし易い。
割り竹が敷きつめられるとその位置まで鉾を前進させる。曳子たちが曳き綱を曳き、車方が木で作られた車止
めを車輪にかませてブレーキをかける、そのタイミングを鉾の前方に乗った音頭取りが掛け声と扇子でもって計
るのである。周囲の見物客は傘を差し、あるいは合羽姿で濡れながら、その巡行のハイライトとも云うべき辻回
しの様子を固唾を吞んで見守る。