八坂神社南楼門の前にある料理屋老舗中村楼の玄関には立派な門松が飾られ、嫌が上でも大晦日の雰囲気
が高まりね楼門をくぐって境内に入ると、人混みは来た時よりも増えている。まだ正午過ぎの時間だが、今夜の
「をけら詣り」に初詣しようと来ている参拝客も多いに違いない。今年最後の日におみくじを引く参拝客も多い
が、おみくじの効用は新しい年に引き継がれるのであろうか。
夜祭斎行ののち、宮司以下祭員によって、境内に吊された灯籠にともされ、人びとの願いを記した「をけら木」と
ともに、夜を徹して(大晦日午後7時半頃~元旦早朝まで)焚かれる。火縄に移した火を消さないように火縄をくる
くると回しながらの「をけら詣り」は京都のお正月を代表する風物詩である。持ち帰った「をけら火」を神棚の灯明
に灯したり、雑煮を炊く火種に用いるなどして新年を祝う。 燃え残った火縄は「火伏せのお守り」として、台所に
お祀りする。京都生まれのわたしも子供の頃は親に連れられて「をけら詣り」に来て、このをけら火の点いた火
縄をくるくると回しながら(くるくる回さないと火が消えてしまう)、新年を迎えた静かな町並みを抜けて家路につい
た懐かしい光景が思い出される。(当時は一晩中運行している電車はなかった。参拝客は皆歩いて家路に向
かった。四条通を何百ものくるくるまわす火縄の輪が新年の真っ暗な中に浮かび上がって舞うように動いてゆく
そんな幻想的な光景の中で、いつもゆっくりと新しい年が明けていったことを正月を迎える喜びとともにしっかり
と瞼に焼き付いている。
「をけら詣り」も年々参拝客が増加してくると、人混みの中で無神経にくるくる回すものだから火縄の火で正月の
晴れ着を焦がされたり、子供が火傷を負ったりする事故もあったが、現在はそんなこともないようである。