中千本の町並はまことに喧噪で大勢の観光客で混みあっていた。通りに並ぶいろいろな店をのぞくうち、町並み
の向こうに大きな伽藍が見えてきた。金峯山寺(きんぷせんじ)である。境内に入ると護摩焚きの準備をしてい
尊像を安置している。 重層入母屋造り、桧皮葺き、高さ34メートル、四方36メートル。堂々とした威容の中に、優
雅さがうかがえる建物である。金峯山寺内では古くから、白鳳年間に、役行者(えんのぎょうじゃ)が創建された
と伝えており、また、奈良時代に、行基菩薩が改修されたとも、伝えられる。その後、平安時代から幾度か焼失と
再建を繰り返し、現在の建物は天正20年(1592)頃に完成したもの。大正5年から13年にかけて、解体修理が行
なわれ、昭和55年から59年にかけて、屋根の桧皮の葺き替えを主として大修理を行なった。
山寺の所在する吉野山は、古来桜の名所として知られ、南北朝時代には南朝の中心地でもあった。「金峯山」と
は、単独の峰の呼称ではなく、吉野山(奈良県吉野郡吉野町)と、その南方二十数キロの大峯山系に位置する
吉野・大峯は古代から山岳信仰の聖地であり、平安時代以降は霊場として多くの参詣人を集めてきた。吉野・大