本堂で心静かに手を合わせた後、長い石段を登り始めた。石段の左側には上まで多くの石仏や石塔が迎えてく
れる。やや汗ばむ初秋の陽気の中を登ってゆくと、見上げる石段の上には阿育王塔(あしょかおうとう)と呼ばれ
る三重石塔(重要文化財)の上部が徐々に見え始めた。登り切ると眼前に中央の三重石塔、その周りに石塔を
守る小さな石塔群、また周囲にはこれまた多数の石塔や石仏が整然と並ぶ光景が広がり、秋の陽を静かに浴
びていた。風音や鳥の鳴声さへ聞こえず、澄み切った青空のもと、ただただ森閑とした時間が止まったような空
間がそこにはあった。三重石塔は不安定なように見えて、そのくせ大地に根を張ったような重量感と存在感を見
せている。