向かいの山の端から朝日が昇ってくると夜の暗さを残す深堂の郷は薄明るくなり、しだれ桜は金色の光を
放つように輝き出す。だがまだ郷が眠るようにその色が沈んでいるだけに、なおいっそうしだれ桜は輝き
をましてゆく。この光景を眺めていると至福のときを過ごしているようにさえ感じられるのは、やはり都
しだれといわれる所以であろうか。郷の人々はこの郷の夜明けを京の都の夜明けの風景と重ね合わせて京
をしのび、またしだれ桜に京の雅を感じ取ろうとするのであろう。
夜明けの誰もいないこのわずかなひと時、そんなことを考えながらカメラを構えていた。