高瀬川の流れる木屋町界隈は京を代表する歓楽街であるだけに、川沿いに咲く桜は何となく艶っぽい。夜
桜ともなるとその艶っぽさがますます艶やかに色づく。木屋町筋は祇園にも近く幕末の時代から色恋の町
であった。幕末といえばこの高瀬川沿いにはかつて土佐藩邸があったし、北に向って少し歩くと長州藩邸
があった。桂小五郎がよく通い芸者幾松と情を交わした寓居は現在もこの高瀬川沿いに料理屋として営業
している。新撰組が名を上げる池田屋騒動の発端となった古高俊太郎(新撰組に捉えられ拷問の末自白)の
住いもこの高瀬川のそばであった。木屋町通りの四条から少し行った所には本間精一郎(越後の人、勤皇
派で暗殺された。遺体は高瀬川に棄てられ、翌朝首が四条河原に晒されたという)遭難の地碑があるし、
坂本竜馬の寓居もあった。御池の木屋町には佐久間象山、大村益次郎の遭難の地碑もある。
こうしてみると幕末勤皇佐幕の抗争の場所でもあった木屋町の夜桜の色は色恋の艶っぽさではなく、幕末
に非業の死を遂げた志士たちの怨念の血の色かもしれない。