「新選組血風録」は昭和37年5月から12月まで小説中央公論に連載されました。
維新動乱期の象徴的存在であった新選組にあらゆる角度から焦点をあててその時代的背景と人物像を浮き
彫りにした「異聞集」で、15編の短編小説をまとめたものであり、後に司馬史観とよばれる独自の史観を
ふまえてそれぞれ味わいのある描き方をしています。
「油小路の決闘」は新選組の一派をなした伊藤甲子太郎らの悲劇的な結末に至るまでを描いています。
「芹澤鴨の暗殺」は近藤勇らと一緒に新選組を立ち上げた芹沢鴨が近藤勇や土方歳三らによって暗殺され
る有名な話でする。
「長州の間者」は京都浪人深町新作が、その腕を買われて新選組に入るがある事情から長州の間者となるも
見破られて殺される話です。
「池田屋異聞」は有名な池田屋騒動を監察の山崎蒸を主役に描いたものです。他に隊の兵学師範であった
武田観柳斎の惨殺されるまでの話を描いた「鴨川銭取橋」、近藤勇の愛刀虎徹にまつわる話の「虎徹」
等々がまとめられています。
◎わたしと「新選組血風録」
「新選組血風録」は昭和40年に土方歳三役が栗塚旭でテレビドラマ化されました。その後続いてテレビド
ラマ化されたのが「燃えよ剣」です。この二つのテレビドラマで土方歳三役の栗塚旭が人気俳優となりま
した(本プログの愛読書1「燃えよ剣」をご参照下さい)司馬さんはこの「新選組血風録」で始めて長編の
幕末を題材にした小説を書かれました。この一ヶ月後から「竜馬ゆく」の連載が始まり、さらに6ヶ月ご
から「燃えよ剣」の連載が開始され、その後数多くの幕末物が書かれました。いわばこの「新選組血風
録」は司馬さんの幕末小説の原点といっていいと思います。
昭和7年に当時新聞記者であった作家子母澤寛が毎週週末に京都に来ては新選組について当時存命してい
た新選組関係者、事件の目撃者の証言、数々の文書を集め、取材してまとめた本「新選組始末記」は新選
組研究の古典として、本書なくして新選組関係の書物は書けないといわれました。司馬さんも「新選組血
風録」を書くにあたって子母澤寛に挨拶に出向いたと、司馬さんは「新選組始末記」からネタを借用した
ことを書いています。子母澤寛が戦前に生の証言を集め、戦後司馬さんはそれを独自の史観で持って小説
に仕立て上げたのです。そしてこの小説以降のちに司馬史観といわれる独自の史観や独特の文章や小説手
法が確立されていくのです。