時間になると八幡宮の境内にある姫ノ宮弁財天で、この日江戸時代から続く雨乞いの神事がで行われた。「蛇
の舞神事」という。大蛇が境内の放生池の中で銀の玉を追いかけ、戯れ、最後に火を吐きながら天に昇ってゆく
という「雨乞い神事」である。雨乞い神事は全国に数限りなくあるが池の中で行う神事は珍しいという。神事はお
多福の面を被り銀の玉を持った黒子と大蛇の頭を担当する黒子と尻尾を担当する黒子と計三人で行う。池の中
に立てられたヨシ束の間を縫ってお多福が銀の玉を持って移動すると大蛇がその銀の玉を追いかける。池の端
にある二つのかがり火だけが唯一の明かりで、かがり火の届かない場所は漆黒の闇である。周囲のカメラのフ
ラッシュが光る瞬間、神事が目に飛び込んでくる。銀の玉を持つ黒子がお多福の面を被っているのも写真を見て
始めて知ったほどである。このような漆黒の闇の中で行われる神事こそまさに神と対話する神事ではないのかと
改めて思い知らされる。闇の中で次々と浮かび上がるフラッシュバッグの映像のように大蛇はのた打ち回り、時
に岸に上がり舞い狂う。池の側に立てられた仕掛け花火に火が点けられ、火車が激しく回り始めると神事は最高
潮となる。そしてざわめきの中を大蛇はいったん幕の中に姿を消すのである。