る。首に巻いたタオルで拭こうと顔をあげた途端、墓地が目に飛び込んできた。照りつけられた夏の日の中、草
いきれと熱せられた墓石に陽炎が立つような墓地である。中にひときわ高い墓石があった。英霊の墓であった。
地に向かったのかは知らないが、おそらくこの墓石の英霊がこの島出身の軍人、兵隊では最高位の位であった
のではあるまいか。まだお盆前というのに墓石の前には美しい花が飾られていて、この英霊が大切に祀られてき
たことを物語っている。気がついて周囲の墓を見渡すと、どの墓も花が飾られていた。英霊だけではなく、奈良
時代から人々が連綿と住みついてきた島だから先祖を敬う心が生活の中にしっかりと定着して今日に至ってい
るのであろう。
墓地の後ろにまだ山道が続いていた。道も悪くなり樹木もますます深くなっていくようであった。これ以上高度を
稼いでも展望のきく気配がないため、元の道を引き返すことにした。墓地を離れると現世に戻ってきたような心地
になり、妙に人恋しく、懐かしく思われるのである。ケンケン山の頂上の見極めはまた次の機会とし、漁港まで降
りてくると漁港の東のほうへ足を向けたのであった。