7月10日に組立ての始まった長刀鉾は2日後の12日の午前中にはすっかり飾りつけも終り、午後3時30分か
ら鉾の曳き初めが行われる。この日は長刀鉾の他、鶏鉾は午後2時30分から、菊水鉾は午後2時からそれぞ
れの鉾町で行われる。長刀鉾はこの日はお稚児さんも乗って本番と同じように鉾が曳かれる。ただ本番と違うの
は曳き手には誰でも参加できることである。めったにない経験だから地元の人々や小学生、園児の他老若男女
観光客も混じって引綱を握る。
山鉾は下から見上げるとまことに大きいものであり、釘一本使わずすべて荒縄で締め上げて組み立てる。荒縄
の美しく巻かれた造形美は何百年という長い年月の中で、いかにしてしっかりと丈夫な鉾を組み立てるか町衆が
知恵を出し合い、工夫してきた結果に違いない。釘やかすがいを使わないで荒縄で組み立てることにより、木組
み同士で遊びが出来て柔軟な組立てが可能となる。だから実際動き出すと木組みはギシギシと悲鳴のような音
を立て、鉾自体大きく揺れる。だがこの柔軟さが重量9トン以上の鉾が巡行時には数十人の囃し方を乗せて安
全な巡行を可能にするのである。
鉾の高さは地上から鉾頭迄約25m、地上から屋根まで約8m、車輪の直径約2m。曳き初めを前に車方(鉾の
運行を担当)が不安と誇らしげの混ざった表情を浮かべて入念に足回りを点検していた。