類が牢屋敷に呼び出されて、そこで暇乞いをすることを許された。それから罪人は高瀬舟に載せられて、大
阪へ回されることであった。それを護送するのは、京都町奉行の配下にいる同心で、この同心は罪人の親類
の中でおも立った一人を大阪まで同船させることを許す慣例であった。これは上に通った事ではないが、い
わゆる大目にも見るのであった、黙許であった・・・
罪人にいろいろ話を聞いてみると、病気の弟が兄にこれ以上迷惑をかけられないと自殺しようとしたが、死にき
れずに瀕死の状態でいるところへ兄が帰ってきて、苦しんでいる弟を楽にさせてやりたいと喉笛に刺さっていた
剃刀を抜いてやったことが弟殺しの罪になったという。いわゆる安楽死である。弟思いの兄のその話を暗澹とし
た心持で聞きながら川を下ってゆくという小説である。